あるひのこと
おとこのこはゆめをみました
ゆめのなかでも、おとこのこは歌っていました
おとこのこの歌にまじって、ふしぎな歌がきこえてきました
警 告 の 歌
ふと目をあけると、そこには一面の緑があった。
呂蒙は首をかしげた。
さっきまで机に向かって仕事をしていたはずだ。
悲鳴をあげる体をむりやり動かして、それで……………
それからの、記憶が無い。
自分は、どうしてこんなところにきてしまったのかと、あたりを見回してみた。
風が吹きぬけ、ゆれる草花。
草花の香りが風に混じり、呂蒙の鼻をくすぐった。
なつかしい、におい。
そう、感じたのは何故だろう?
なつかしさに浸っていると、風が声を運んできた。
歌にも聞こえる、声。
しかし、歌にしてはやけに不規則で。
でも、何故か心地いい。
あったかく、優しい。そんな、歌。
目を閉じて聞いていると、さっきまではかすかにしか聞こえなかった歌が、歌詞までしっかりと聞き取れるほどになった。
びっくりして目を開けると、さっきまで無かった柵の上に、呂蒙に背を向けた少年が歌っていた。
10才いくかいかないかの少年が、ただひたすらに歌い続けていた。
『狂ってしまう』
優しい曲調から、とんでもない言葉が飛び出した。
『狂ってしまうよ。ぼくの歌が。あなたの歌が』
歌はさらに続く。
呂蒙は驚いて、立ち上がった。
『歌が狂うよ。心が消えるよ。これは警告。まだ大丈夫。でも、すぐ狂うよ。あなたの歌が、みんなの歌が』
どういう意味だ?と、呂蒙は聞こうとしたが、声が、出ない。
口が動くだけで、声を発する事が、できない。
『すぐにわかるよ。この意味が。でもね、気付いたときには、もう遅いよ。今なら間に合う。気をつけて』
お前は、誰なんだ。
なぜ、俺にそんなことを言うんだ。
お前の目的はなんだ。
次々と、疑問符ばかりが頭に浮かんだ。
しかし、それを声にすることができない。
少年に近寄ろうにも、足が動いてくれない。
まるで、その地面に縛り付けられたかのように。
少年の歌に混じり、声が聞こえた。
自分を、呼ぶ声。
とても、暖かい、声…。
『ほら、あなたを呼ぶ歌が。はやくおいき。ぼくからは、ここまで。これは警告。警告の歌。まだ大丈夫。
でも、危ないよ。あなたの歌を狂わすモノは、そばにイル。そばにイル。そばに、イル………』
* * * *
凌統は、病室にいた。
急に倒れた呂蒙を病室まで運び、現在に至る。
大体の診査が終わり、凌統は呂蒙が寝ている寝台に腰掛けていた。
医者は、自分がいるから、貴方は戻りなさい。と、そういったが、無視をした。
呂蒙のそばを離れたくなかった。
医者も、どうやら諦めてくれたようで、何も言わなくなった。
いったい、何時間こうして座っているのだろう。
あの時、もっと強く言って、無理矢理にでも寝かせとけばよかったのだろうか。
そんな、後悔ばかりが、凌統の頭をよぎる。
そんな時。
「おま………は……れだ……」
呂蒙の口から、弱弱しく、声が出た。
あまりにも小さな声だったので、大半の部分は聞き逃し、意味のわからない言葉を言っているように聞こえた。
「呂蒙さん!?どうしたの?」
凌統は立ち上がり、呂蒙を見る。
しかし、呼びかけに呂蒙は応じない。
ひょっとして、うなされているのかもしれない。
そう思った凌統は、とっさに、呂蒙の手を握った。
昔、自分が呂蒙にそうしてもらったように。
呂蒙の額から、汗が流れる。
その汗を、凌統は優しくふき取り、手を握り続けた。
「呂蒙さん……」
呂蒙の名を呼ぶ。
「呂蒙さん、大丈夫。俺がいるよ」
昔、嫌な夢を見たとき、呂蒙は今凌統が言ったことと、同じことを言ってくれた。
まさか、自分が呂蒙にこんなことを言う日がくるなんて、思ってもみなかったけれど。
「呂蒙さん……」
だんだんと、呂蒙の呼吸が静まる。
そして、呂蒙の目が開いた。
「りょ……う……とう……?」
「そうだよ、呂蒙さん。俺」
息を乱し、呂蒙はゆっくりと凌統のほうを向いた。
そして、片方の手で、自分の目を隠した。
「おかしな……夢を見た……」
「呂蒙さん、疲れてるんだよ。呂蒙さんの部屋にいったら、いきなり倒れるから……。マジビビったっつーの…」
「あ……すまない…。……倒れたのか、俺」
「そ。バターンってね。病室まで俺が運んできたんだぜ?」
「……ありがとう…凌統…」
にっこりと笑う呂蒙に、べつに、いいって。と、横を向いた。
そんな顔で、お礼を言われたのは初めてで。
照れくさいのを隠し、わざとそっけなく振舞った。
けれど、呂蒙にはすべてお見通しで。
そんな凌統を見て、呂蒙はまた笑った。
と。
「呂蒙殿っ!!」
陸遜が勢いよく、病室に入ってきた。
「呂蒙殿!大丈夫ですか!?倒れたって……」
「ああ。でも、大丈夫だ。もう、動ける……」
寝台から体を起こそうとしたが、それは凌統によって止められた。
優しく呂蒙を寝台に戻し、布団をかける。
「駄目。呂蒙さんはもうちょっと寝てて」
「でも、まだ仕事が……」
「何言ってるんですか!」
陸遜は身を乗り出していった。
「仕事なんて、私がやっておきます!何のために弟子がいると思っているのですか?」
「陸遜……」
「後は、私に任せて、ゆっくりしていてください」
そう言って、陸遜は呂蒙の頬を優しくなでた。
愛しそうに………。
そして、凌統に見せ付けるように。
「呂蒙さん。俺ら、もう行くわ」
「ん?そうか。悪かったな。凌統」
「ちょっと、凌統さん。"俺ら"ってことは、私も入ってるって事ですか!?」
「当たり前だろ。お前がいたら、呂蒙さんがゆっくり休めねぇじゃねーか」
凌統は、陸遜の腕を引っ張り、無理矢理病室の外に出した。
そして、呂蒙に軽く手をふり、自分も病室を後にした。
扉が閉まる音をしっかりと聞いて、凌統が振り向くと、陸遜が立っていた。
恨めしそうな顔をして。
「なんつー顔してんだよ。歪んだ顔をさらに歪めて、何がしたいんだっつーの」
「………どうとでも言いなさい」
さっき、呂蒙の病室で聞いたときの声とは、似ても似つかない低い声が、陸遜の口から出てきた。
突然の変わりように、流石の凌統も驚く。
「…へぇ…?すごい変わりようじゃねーか。やっぱ、アンタ、裏があったんだ?」
「ええ。残念ながらね」
ふん。と、陸遜は鼻で笑った。
「貴方を邪魔するはずが…逆に邪魔されてしまうなんてね……」
「はぁ?何言ってんだ、お前」
「……………さぁ…?何言ってるんでしょうねぇ……私…」
クスクスと、陸遜は不適な笑を浮かべている。
ぞくり。と、鳥肌が立つほどの寒気を覚えた。
こいつは、誰だ。
凌統は、思わず一歩下がった。
額から、汗が流れる。
そこにいるのが、いつもの陸遜ではない、誰かに見えた。
そんな凌統の様子をみて、さぞ面白そうに笑い、くるりと向きを変えて歩き出す。
凌統の耳には、陸遜の笑い声が、ずっとのこっていた。
警告の歌が木霊する
続く
陸遜がくろーい……。
最後のほう意味不明……。
おもいつかなかったよおかあさん(キモいわ
なんだよこの終わり方…。
スランプかな……