たとえ裏切り者と呼ばれてもかまわない








■ 幸 せ な 罪 ■








呉の国の国境付近にある、大きな木の下。
そこに呉の武将である呂蒙は居た。

呂蒙は人を待っていた。
ただ会うためだけに、わざわざこんな場所を選んだのは、その人物を他の人間に見られるといろいろとまずかったからだ。
決して、この人物と会うことは許されないだろう。
けれど、会いたくて仕方が無かった。
それはきっと、今呂蒙が会おうとしている人物も同じであろう。
でなければ、わざわざ危険を冒してまでこんな場所に訪れるはずが無い。

呂蒙は目を閉じ、耳を澄ました。
呂蒙の耳に届いたのは、風が木々を揺らす音。
その音に混じって、馬の足音が聞こえた気がした。
初めは小さかった音が、どんどんと大きくなってくる。
それと共に、呂蒙の胸は躍った。


「呂蒙!」


馬のひづめの音と共に、聞こえてきた愛しい人の声。
駆け寄りたい衝動を抑え、呂蒙はゆっくりと立ち上がる。


「…もう、来てくれないかと思ったぞ?」
「まさか。拙者が貴殿との約束を破るわけがなかろう」
「それも、そうか」


呂蒙の待ち人………関羽は、にっこりと微笑んで、呂蒙を優しく抱きしめた。
懐かしいような、そんな不思議な気分になった。

会ってはいけない。
触れ合ってはいけない。
愛し合ってはいけない。

それは国が違うものとして、敵同士として当たり前のことだった。
けれど、それをすべて破って、今二人は確かに互いのぬくもりを感じていた。
ただ、ただ幸せだった。
こうしている時間が、二人にとっては本当に大切な時間なのだ。

会ってはいけない事など分かってる。
けれど、確かに呂蒙は関羽のことを好いていて、関羽も呂蒙を好いていた。
裏切り者と言われてもかまわない。
共にこの時間を過ごす事ができるなら、そのくらいの汚名、どうってこと無い。


「好きだ。呂蒙」
「あぁ……。有難う」


言葉を交わすたびに、互いの想いを確認しあうたびに、罪は深くなってゆく。



あぁ、どうか

この幸せな罪が永遠に続きますように。














切ないような、あったかいような、甘いような……
そんな雰囲気を目指しました。
やっぱり、国の違う恋愛って、辛いですよね…
いろいろと。
でも、きっと二人はこっそり会っていたと思います。
そして愛を育んでいればいいよ!!(お前