「パパ、オドロキさん、花火やろう!花火!!」































それは、彼女の突然の思いつきだった。

























































夜の花























































「へ?花火?」

「そうです!花火です!!」



スーパーで貰ったんですよ!と、みぬきちゃんは嬉しそうに手に持った花火セットを俺に見せた。


花火なんて、小学校の時以来だ。

たまにはいいかもしれないな、と、俺はうなずいた。





「そうだね。たまにはいいかも」

「でしょ、でしょ!!ねぇ、パパもやるよね?」

「……みぬき、僕に拒否権ない事知ってて言ってるだろう…」






成歩堂さんは大きなあくびをして、諦めたように言った。

…まぁ、確かに養ってもらっている側としては、それを拒否することなどできないのだろう。




仕事が休みのときくらい、ゆっくり寝させてくれよ…と、ぶつぶつと成歩堂さんは言っていたが、

みぬきちゃんはまるでそんなこと気にしていなかった。








「そうだ!せっかくだし、浴衣着ようよ!浴衣!」

「浴衣って……そんな本格的にやるんじゃないんだし」

「何言ってるんですか、オドロキさん!大切なのは雰囲気ですよ!雰囲気!」

「雰囲気、ねぇ…」

「それに……」




























見たいでしょ?パパの浴衣。

































成歩堂さんに聞こえないようにか、みぬきちゃんは小さな声で俺にそう言った。


そう言われてしまったら、もう俺はうなずく事しかできない。









……見たいのは、本当だから。





























「よし、きまり!!パパー、浴衣って、どこにあったっけー?」






再び眠ろうとしていた成歩堂さんを、みぬきちゃんは激しく揺さぶった。












……なんか、いたたまれない。
















そして、成歩堂さんはみぬきちゃんと一緒に、物置に浴衣を探しに行った。




































いつもと違う成歩堂さんが見れる。

そう思うだけで、俺の胸は高鳴った。










早く夜にならないかな、とか考えながら

俺は再び法廷記録に目を落とした。
























































そして、夜。























近所の公園で一人、俺は着慣れない浴衣の端をつまんで、ため息を吐いた。


やっぱり、動きにくい。

着慣れているスーツが、異様に恋しくなった。



けれど、みぬきちゃんの誘いに乗ってしまった以上、今更着替えるわけにも行かない。











そんな事を思っていると、みぬきちゃんが成歩堂さんを引きずるようにこっちに近づいて来ていた。













「オドロキさん!お待たせ!」

「みぬき……。そんなに引っ張らなくても、ちゃんと行くから…」




















引っ張られる成歩堂さんを見て、俺は言葉を失った。




































いつもは決して脱がないニット帽を脱いで……




そして、髪の毛はセットしていないのか、少し乱れていた。








あまりちゃんと着れていない浴衣からは、肌色が見え隠れする。
























なんか………




























エロ、い。

























「おーい…オドロキさーん、聞いてます?」

「へっ!?あ、ゴメン…聞いてなかった」









別の世界に旅立っていた俺は、みぬきちゃんの声で現実世界に引き戻された。





「だから、バケツですよ。バケツ」

「バケツ?」

「そうです。バケツがないと、花火の燃えカス、入れれないじゃないですか」






確かに、花火の燃えカスをそのままにしておくのは、マナー違反だ。

けれど、いちいち取にもどるのは面倒くさい。







「うーん…………。みぬきちゃんのパンツから、何か出せないの?小宇宙なんでしょ?」

「いくらなんでも、みぬきのパンツにバケツなんて…………………あ」






何か思い当たるものでもあるのか、ごそごそとパンツの中を探し始めた。


ほんとに、なんでもあるんだな。あのパンツ。



時々、どこぞのネコ型ロボットから貰ったんじゃないかとか、ありえない事を考えてしまう。







「あ、あった!ありましたよ、オドロキさん!バケツの代わり!」






そう言って取り出したのは、へこんで形が変わってしまった、シルクハット。

……たしかに、代わりにはなりそうだけど……






「…いいの?それに花火の燃えカスいれても」

「大丈夫ですよ!見た目はぼろぼろでも、結構丈夫ですよ!みぬきのシルクハット!」

















いろいろ不安はあったが、とりあえず、それをバケツ代わりにして、花火を始める事にした。








































パチパチと、火がはじける音がする。

みぬきちゃんは、両手に花火を持って、嬉しそうに振り回している。

みぬきちゃんの手が円を書くと、光も同じように円を描く。

まるで空に絵を書いてるみたいだな、と思った。






「元気だねぇ、みぬきは」







そう成歩堂さんは呟くと、手に持った花火を小さく振った。


何だかんだ言っていても、結構楽しそうだった。






























「オドロキ君、何にやついてるんだい?」

「え?あ、俺、にやけてました……?」

「うん。思いっきりね」

「ぐ……」









オドロキ君はわかりやすいなぁ、と、笑われてしまった。




だって、この状況でにやつけないはずがない。

















暗い公園で、淡い花火の光で照らされる成歩堂さんは







あまりにも、綺麗…だったから。













…なんて、絶対言わないけど。



























「パパ、パパ。花火、もっとちょうだい!!」






また俺が別の世界に旅立とうとした時、みぬきちゃんが燃え尽きた花火を持って、駆け寄ってきた。


……危ない、危ない…

危うく、勢いで告白するところだった。

落ち着け。とりあえず、落ち着け…俺。














「残念だね、みぬき。もう、線香花火しかないよ」

「えー!つまんなーい!オドロキさん、買ってきて下さいよ〜」

「えぇえ!?何で俺が!?っていうか、財布もってきてないから!」

「オドロキさんのケチー」

「オドロキ君のケチー」

「なんと言おうと買いませんからね!っていうか、成歩堂さんも一緒になって言わないでくださいよ!!」









俺がそう怒ると、二人は声をそろえて笑った。

怒っている俺も、だんだん馬鹿らしくなって、気が付けば一緒になって笑っていた。




こんな時、思う。



あぁ、これが"家族"なんだな……って。

















まぁ、血のつながりはまったくないんだけど。

























「さて……じゃぁ、線香花火やって、帰ろうか」

「うん!じゃぁ、競争しよう!誰が一番長くもつか!」

「競争かー……、俺も小学生の頃、よくやったなぁ…」

「ほら、そこ!!遠くを見ない!ホラ、オドロキさんの分ですよ!」

「あ、有難う……って、みぬきちゃんずるいぞ!そんな5本も束にして!!」

「みぬき、ずるはいけないな。ずるは」

「ぶー!パパまでそんな事言う〜!」










成歩堂さんに言われて、みぬきちゃんはしぶしぶのこりの4本を地面に置いた。




そして一斉に、手に持ったライターで線香花火に火をつける。










小さな小さな火の花が、紐の先で淡い光を発しながら、咲いた。









































その花が赤い種になって地面に落ちても、きっと、俺達"家族"は終わらない。






そう、きっと。
















































そう信じて、俺は赤い玉が地に落ちるのを見守った。













































































end.