弁護士バッチが僕の胸に姿を現さなくなってから、いったいどれくらい立ったのだろう。
それから、新しい仕事も見つからなくて、しばらく僕は途方にくれるしかなかった。
そんな時、僕は気付いた。
この世の中には、物好きな人間がいる。
その物好きな人間を売る、店がある。
……生きるために、僕はその仕事を選んだ。
t a s k .
「パパ、今日も仕事なの?」
心配そうに、みぬきが言った。
「あぁ、そうだよ。マスターから『また、物好きな客の相手をしてやってくれ』って言われてね」
「ふーん……そうなんだ。またポーカー?」
「…うん、まぁ、そんなところだよ」
「そっか………。いってらっしゃい」
行ってきます、と、みぬきの頭を軽くなでて、重い腰を上げる。
心配そうなみぬきの視線が痛かった。
あぁ、自分は今、どんな顔をしているのだろう。
きっと、惨めな顔をしているに違いない。
「…そういえば、オドロキ君は?」
「オドロキさん?もう寝たと思うよ?」
ふーん、と、たいして興味もなさそうに返事をして、扉を開ける。
まぁ、いいか。
彼はみぬきよりも"みぬく"力が強いから、いろいろと質問されるのは厄介だ。
冷たい風に当たりながら、それよりも寒いであろうボルハチの店へと急いだ。
だるい体を引きずって、ようやく我が家へと帰る事ができた。
今日は本当に、死ぬかと思った。
世の中にはこんな30すぎた男相手に本気になれる奴もいるんだなぁと、人事のように思う。
できるだけ音を立てないように、僕は扉を開ける。
いつも通り、真っ暗な闇が僕を出迎えてくれた。
ただいま、と、誰もいない闇に向かって呟く。
さて、まずはシャワーでも浴びないと。
早くこの汚い体を洗いたい。
強烈な眠気を無理矢理払いのけて、重たい足を浴室に向ける。
ふらふらとたどり着いた浴室の前には、最近この家にやってきた青年が立っていた。
青年は僕をじっと、ただじっと見詰めていた。
「……あれ、寝てた…と、思ってたのに。………ねぇ、オドロキ君?」
動揺を抑えて、あくまで冷静に僕は言った。
オドロキ君は何も言わない。
「…どいてくれないかな。シャワー浴びたいんだけど」
仕事で疲れてるんだ。と、そう言ってニット帽をかぶりなおす。
「…仕事って、何ですか」
僕に目線を合わせずに、オドロキ君は低い声で僕に言い放った。
「仕事は、仕事だよ」
「俺やみぬきちゃんに言えない仕事なんですか?」
「……どうして、そう思うんだい?」
「そんなの……………、成歩堂さんを見てれば分かります」
「あなたは……」
「…………やめてくれないか?」
オドロキ君が言い終わる前に、僕の言葉がさえぎった。
その言葉の先を、言わせるわけにはいかない。
「君には関係のない事だ」
できるだけ冷酷な表情を作って、オドロキ君を睨む。
彼がひるんだところで、僕は彼の横を通って浴室に逃げ込むように入った。
服を着たままだったけど、僕はシャワーを浴びた。
水が床と僕を叩きつける音が浴室に響く。
その水音で、講義の声を掻き消した。
まだ、彼が知るには早すぎる。
彼にはまだ、やらねばならない事がある。
そして同時に、僕にもやらねばならない事がある。
すべてが終わって、笑い話になるそのときまで……
彼は無知のままでいい
end.