俺が好きなあの人は興味が無い事にはとことん無関心だ。






……まさか、ここまで無関心だとは思って無かったけれど。























n a m e

























「ただいまー。オドロキ君、ごはんー」

「帰ってきて早速ソレですか。まずは昨日の夜からこの時間帯までなんでいなかったかの説明とか…っていうか、もうとっくにお昼すぎてるんですよ!?どこをほっつき歩いていたんですか!大体あなたは…」

「あー、五月蝿いよ、オドロキ君。そんなに早口で喋ったら僕ついていけないからさー」




軽く耳を押さえながら、成歩堂さんは俺の流れる指摘の嵐を軽く流した。


前にみぬきちゃんが、『パパって、野良猫みたいなんだよねぇ』と言っていたのは正しいと思う。

今日みたいに、成歩堂さんは夜から次の日のお昼過ぎまでふらりとどこかに行ってしまう事が多い。
前に理由を聞いてみたが、「極秘任務」とだけしか教えてくれなかった。

…結局、俺が成歩堂さんの極秘任務の内容を知ることは無く、今に至っている。


どうせ今日も帰ってこなかった理由を話す気は無いと分かっていたので、適当に俺は愚痴をこぼしつつ、取っておいたお昼の残りを暖めた。
チン、という機会音が鳴り、温まった料理を取り出す。




今日のお昼はチャーハンだった。
楽だし、作るのにそんなにお金がかからないからだ。





暖めたチャーハンをお盆に載せて、冷たい麦茶の入ったペットボトルと一緒に運ぶ。
机の上に散らばったみぬきちゃんのマジックグッツをどけて、とりあえずご飯を置けるだけのスペースを作った。



「はい。チャーハンでいいですよね?」

「うん。有難う」



いただきます、と、きちんと手を合わせて蓮華を持つ。
そして、麦茶入りのペットボトルに目をやると、ちょっと残念そうに呟いた。



「……ぶどうジュースがいいんだけどなぁ……」

「駄目ですよ。みぬきちゃんから禁止されてるでしょう?」

「えー……。でも、やっぱりご飯のお供にはぶどうジュースだと思わない?」

「思いません」

「ケチ」



ケチも何も、そもそもぶどうジュースをご飯のお供にするのが間違っていると俺は思う。
だって、おかしいだろう。普通。
ご飯の時に飲むのは、お茶がどう考えても普通だ。



………まぁ、今更俺はこの人に"普通"を求める気は無いんだけれど。






ふと、俺の作ったチャーハンを、夢中で食べている成歩堂さんの横のモノに目が行った。


色鮮やかな赤や黄色やピンクや白の花。
そして、それを引き立てている綺麗なリボン。

いったい、何処でこんなものを……と、思わず食い入るように見てしまった。



「何?コレが気になるの?」



そう言って、成歩堂さんはその花束をひょい、と、持ち上げた。



「気になるっていうか……これ、成歩堂さんが買ったんですか?」

「まさか。貰ったんだよ。お客さんからね」



物好きなお客さんもいるんだよねぇ……と、まるで人事のように言って、ソファーに花束を投げた。
花束がソファに激突し、ぐしゃりと嫌な音を立てる。



「ちょ!!成歩堂さん!!せっかくの花が台無しになっちゃうじゃないですか!!もっと大事にしてあげないと…!」

「……ふーん、そういうものなの?花って」

「当たり前でしょう!!」



俺もそれほど花に詳しいわけではないが、花を乱暴に扱ったら台無しになってしまう事ぐらい知っている。
一応、花も生きているのだから、それなりに丁寧に扱わなければ枯れてしまう。

俺はソファの上に放り投げられた花束を手に取り、適当に整えた。



「花とか、興味ないし……。あ、でもチューリップは知ってるよ。その花束にチューリップは無いみたいだけどね。」

「あ、当たり前です!!そんなの、幼稚園児でも分かりますよ!!」

「そうなの?」

「そうです!!」



ふーん、と、たいして興味を持った様子も無く、成歩堂さんは再びチャーハンを食べ始めた。

……興味のないことには、此処まで関心をもてないものなのかと、逆に感心してしまった。
もちろん、悪い意味で。



まぁ、これも今に始まった事でもないようだけれど。







とりあえず、この花束をこのまま放置するにはあまりにも可愛そうだったので、台所に行って、花瓶に代用できそうなものを探す。

そして、選ばれたのは、成歩堂さんが好んで飲んでいるぶどうジュースの空き瓶だった。


水を半分くらい入れて、茎を適当な長さに切って……
瓶に花を括っていたリボンを巻く。




……うん、大分良くなった。





俺はその瓶を抱えて、再び成歩堂さんのいる居間に戻った。







「へぇ。オドロキ君が活けてくれたの?」

「ええ、まぁ……。花瓶が無かったので、ジュースの瓶で代用しましたが」

「花瓶もジュースの瓶も同じ瓶なんだから、別にいいでしょ」

「………………一応違う名前がついてるんで、違うものだと思うんですけど…」

「名前なんて、みんな同じようなものでしょ?瓶は瓶」

「………もう、いいです。それで」




軽くめまいがしたような気がするが、とりあえず俺は花を活けた瓶をチャーリー先輩の近くに置いた。

………なんか、この一箇所だけ色鮮やかだと、なんか違和感がある…。
けれど、ほかに置いておく所が無いので、とりあえずは此処でいいだろう。



「成歩堂さんって、本当に興味の無い事はとことん無関心ですよね……」

「まぁ、それについて覚えるのも面倒くさいしね」

「……そういうものなんですか…」



はぁ、と、俺は諦めたようにため息をついた。


そういえば、初めて成歩堂さんに会った時、名前を間違えられた覚えがある。
そして、いくら訂正しても聞き流されてしまった事も、覚えている。



……あれは、興味が無かったからなのだろうか。

だとしたら、ちょっと寂しいかもしれない。



「成歩堂さん」



ちょっと気になって、俺は成歩堂さんに話しかけた。
成歩堂さんは最後の一口を口に運ぶと、それを飲み込んで、なんだい?と、言った。



「俺と初めて会った時、俺の名前間違えましたよね?」

「何?まだ根にもってるの?」

「いや、そうじゃなくって………なんであの時、俺が訂正しても聞いてくれなかったんですか?」



うーん、と、成歩堂さんは蓮華を軽く前後に揺らしながら、唸った。



「そうだねぇ……まぁ、あのときは特に興味も無かったしね。君に」







「そう、ですか………」



分かっていた答えだったが、なんとなく落ち込む。

でも、と、成歩堂さんは蓮華を俺に向けた。



「今は違うよ?君の事、大体は調べたからね」




























「………へ……?」



思わず、間抜けな声を上げてしまった。





ちょ、ちょっと待てよ。


成歩堂さんは、興味のある事しか調べる気にはならないから……
俺の事について調べた、ということは、俺に……

















興味が、ある…?













「え、ちょ、成歩堂さん!それって、どういう…?」

「さーね。どういう事でしょう?」



ニヤニヤと笑いながら、ご馳走様、と言って、成歩堂さんは居間を出て行った。

俺はというと、完全に思考回路が停止していて、成歩堂さんが居間を出て行くのを黙って見ているだけだった。









思考回路が正常に動き始めたのは、それからしばらく経ってからだった。













成歩堂さんは、興味のある事しか調べないし、覚えない。


俺の事を調べたということは、俺の事に多少であっても興味を持っているということで……

それが、無性に嬉しく感じた。






だんだんと顔が熱くなってきた気がしたから、それをごまかすために、さっき活けたばかりの花瓶を持って、台所に水を換えに行った。





















今度、この瓶にいけてある花の名前を、調べてみよう、と、思った。













































end.